研究概要
新たな治療法の開発や臨床応用に伴い、治療適用を判定するための臨床検査技術の研究もまた進められています。一方、近年は遺伝子診断技術の発達に伴い、個々の患者様の特徴に合わせたオーダーメイド医療の導入も進んでいます。
当研究室では主に大腸癌と乳癌の遺伝子解析に関わる研究を行っており、患者様の予後判定や悪性度評価のためのバイオマーカーの探索に取り組んでいるほか、画像診断技術の応用による自動検査化、高感度検査試薬の研究開発など新たな臨床検査技術の開発、改良にも取り組んでおります。
研究テーマ
本研究室では以下の研究テーマに取り組んでおります。
- 大腸癌におけるmRNA/miRNA発現およびsplice variant解析
- 乳癌におけるmRNA/miRNA発現およびsplice variant解析
- 免疫染色における自動定量化と診断カットオフ指標の解析
- 臨床検査試薬の高感度化と妨害物質除去法に関する研究
- 骨随細胞の自動分類化のための染色方法の検討
- 質量分析による腫瘍関連バイオマーカーの網羅解析と予後評価
これまでの研究成果
- 研究テーマ
- ヒト大腸癌におけるTP53 splice variant発現解析
※ ヒト大腸癌のリン酸タンパク質や細胞増殖調節の比較や仕組みを表した図と画像
- 研究概要
- 大腸癌の癌化過程において、遺伝子の不安定性や変異が強く関与していることが知られています。大腸がんにおいてはAPC,p53,DCC,K-ras遺伝子などの変異や欠失が高頻度に認められることが明らかとなっています。がん抑制遺伝子であるp53は染色体上の17p13に位置し,53kDaのリン酸タンパク質をコードする11個のExonを有している。核内に存在するリン酸化蛋白であり、細胞周期G1からS期の移行期に作用し、細胞増殖調節に重要な役割を果たしていることが知られているます。ヒトp53遺伝子のIsoformとしてはp53α/β/Γ, Δ40p53α/β/Γ, Δ133p53α/β/Γ, Δ160p53α/β/Γの12種が確認されていますが, p53βとΔ133p53は,大腸腺腫と癌とで発現レベルが大きく異なることが報告(Kaori Fujita et.al, Nat Cell Biol.; 11(9):1135–1142.)されているものの、大腸がんにおけるsplice variantの臨床病理学的意義については明らかとなっていません。
本研究ではヒト大腸がんにおける- mRNA レベルでのTP53 splice variantの臨床病理学的検討
- genomic DNA におけるTP53 mutationとTP53 splice valiant発現の関連性
- 免疫組織化学染色におけるTP53発現とTP53 splice valiant発現の関連性
についての検討を行いました。その結果、以下のことが明らかとなりました。
- TP53βはp53mt腫瘍で顕著に発現率低下が認められた
- TP53ΓはStageⅠ+ⅡとStageⅢ+Ⅳ間との比較において発現率低下が認められた
- TP53ΓはStage Ⅰ+Ⅱで正常部/腫瘍部ともに発現率は低値を示した
- TP53Γはp53wt腫瘍で発現率低下が認められた
これらのことからTP53βおよびTP53Γは大腸がんにおけるがん化の進展に関与していることが示唆され、今後さらなる解析を行い、大腸癌におけるsplice variant発現解析の臨床的意義と予後との関連性について評価を行う予定です。
当研究室では岩手医科大学病理学講座分子診断病理学分野との共同研究により遺伝子解析および臨床病理学的研究を行っております。